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買い物に出かけようかと外に出てみると、空は分厚い雲に覆われていた。
「ありゃ~・・・これは雨が降りそうですね。アリア社長」
空を見上げながらアリア社長に話しかけるのは、アリアカンパニー唯一の水先案内人。
「雨が降り出さないうちに買い物に行きましょうか」
念のため傘を持って、アリア社長に合羽を着せて。
準備万端、といわんばかりの笑みを浮かべ、灯里は外に出た。
買い物の最中、案の定雨は降り始めた。
「あー、やっぱり雨降ってきましたね・・・早く買い物を終わらせて帰りましょう」
店を出て空を見上げると、雨は少しずつ強さを増しているように思えた。
早くアリアカンパニーに戻ろうと、帰り道を足早に辿っていたとき、突然髪の毛を引っ張られた。
こんなことをするのはあの人だけ・・・そう思って振り向くと、やはりそこには一人の火炎之番人がいた。
「よう、もみ子。丁度今そちらに向かっていたところだ」
「暁さん!もみ子じゃないですし、引っ張らないでください!」
「なにをう?引っ張ってほしいといわんばかりの見事なもみ上げではないか」
また引っ張ろうとする髪を奪い返しながら灯里はたずねた。
「暁さん、今日はどうしたんですか?」
「うむ、火炎之番人の先輩に頼まれて買出しをしていたところだ。
ところが買い物を終えたときに雨が降ってきてな。
丁度近かったからアリアカンパニーで雨宿りをさせてもらおうと思ったんだ」
ちょっと先を見ると、アリアカンパニーは目と鼻の先。
「そうだったんですか・・・雨も強くなってきているみたいですし、急ぎましょう。どうぞ、入ってください」
そういって差し出したのは傘。暁は礼を言って入ろうとした瞬間、あることが頭をよぎった。
(・・・これって、俗に言う『相合傘』ってやつか・・・?)
なんて考えたら少し、いやかなり恥ずかしいかもしれない。
雨も降っているし、周りに人は居ない。これ以上雨に濡れるのも嫌なので背に腹は変えられない。
勧められたまま入り、身長差から自分が傘を持って、歩き始める。
(他のヤツとこんなことしてねぇよな?)
傘を持つといったときに軽く触れた手が熱いのと、いつもより鼓動が早いのはきっと気のせいだと思うことにした。
アリアカンパニーに着き、濡れた髪やらなんやらを拭いて。暖かいお茶を飲んで体を温めて。
そして、徐々に勢いを増す雨。強い風も伴い、土砂降りとなっていった。
「雨が一向に上がる気配が無いですね・・・なんか、気のせいか空からゴロゴロと音が聞こえますし。か、みなりなんて落ちませんよね・・・?」
灯里が「雷」と言うのをちょっとつっかえたことが何故だか引っかかった。
「なんだ、お前雷苦手なのか?」
「えっ!?いや、そそそそんなことないですよ!!?」
「ほぉ~、そうだったのか」
意外というかなんというか。なんでも楽しめる奴なのにとか思ってしまった。
「・・・なんというか、音とか、迫力がマンホームのものとは違って・・・」
そういった瞬間、辺り一面が一気に真っ白になった。
そしてそれから間を置かずに雷の落ちる大きな音が鳴り響いた。
(こりゃ近いな・・・)
雷は平気な暁だが、流石に今の雷には吃驚した。それほどまでに、音が大きかったのだ。
ふと、体に暖かくて柔らかいものがくっついていることに気がついた。
見覚えのある綺麗な桜色の髪の持ち主が、灯里が暁の胸に顔を埋めていた。
小刻みに震えて、暁にしっかりと抱きついている。
(えええええええええええええええええ!?)
頭が真っ白になりそうになった暁だが、先ほど雷が苦手だと灯里が話したことを思い出した。
(そうか・・・あんなに近かったもんな)
そう思いながら、そっと手を灯里の背に回す。
一瞬躊躇したが、やさしく、包み込むように抱きしめる。
なおも鳴り続ける雷の音。雷が落ちる度に体を震わせ、背中に回された手に力が入っているのが分かる。
そんな彼女を落ち着かせようと、暁は一定のリズムで軽く背中を叩く。
それに安心したのか、それとも次第に雷が遠くなっていったからなのか、背中に回された手に力が入ることは段々と無くなっていった。
すっかり日も暮れ、雨も上がったようだ。
ずっと腕の中に居た灯里に声をかける。が、反応は全く無い。
「?おい、もみ子?」
そして、聞こえたのは規則正しい寝息だった。
頬に涙の跡が残っていることから、きっと泣き疲れて眠ってしまったのだろう。
しょうがないので、3階の灯里の自室まで運び、ベッドに寝かせる。
涙の跡が残る寝顔に、何故か心がざわついた。
おそるおそるというのに近い感じで、頬に手をやり、そっと涙の跡を拭く。
「・・・俺様以外の男の前で、泣き顔なんか見せんなよ?」
他の奴には見せないでくれ。自分だけに弱さを見せてほしいと思った。
自分は何を考えているのだろう。まるで、こいつの『特別』になりたいみたいじゃないか。
そこまで考えて、気づく。
そうか。自分はこの水先案内人の『特別』になりたいんだ、と。
「今日はもう帰るが、今度逢った時覚悟しとけよ」
寝ているので聞こえてはいないだろうが、そう言い残してアリアカンパニーを立ち去った。
家まで帰る途中、どうやって鈍感な彼女にアピールをしていこうかと考える暁だった。